変わる韓国の若者文化、考え方を、韓国人視点で紹介します。

目次
- ○ トレンドは小確幸です。「わずかでも確実な幸せ」
- ・本来は、日常生活の中に、小さな喜びを見出すのが『小確幸』ですが、
- ○ ひとりがいい、そんな人が増えています。
- ・「ひとり」をテーマにした本も、たくさん出ています。
- ・日本の本の翻訳版も、たくさん出ています。
- ・誰にも邪魔されずに1人で食事を楽しみます。
- ・ホンパブを楽しむ人は、20代の女性が一番多いですが、30代、40代も増えています。
- ○ 人と直接話すことがストレスです。
- ・このことは、アンケート結果からも明らかです。
- ○ ビールに焼酎を少しだけ入れて飲みます。
- ・爆弾酒と言わないで、ソメクと言います。
- ○ 自分の性格はMBTIテストで調べます。
- ・性格は、16のタイプに分かれます。
- ○ 食事代やお茶代は、誘った人が全額払います。
- ・たいていの韓国人は、日本語の「割り勘」という言葉を知っています。
- ・どちらが払うべきかの感覚の差で、けんかになったり、別れたりすることもあるそうです。
- ・若者たちの間で流行しているのが、デート通帳です。
- ・以前は、男性は、少し無理してでもかっこよく振舞いました。
- ○ お金を借りてでも投資をします。
- ・ヨンクルビットゥ(영끌빚투)と言います。
- ○ 嫌悪感情をすぐ表に出します。
- ・韓国のことは地獄の韓国、ヘル朝鮮です。
- ○ 今の若者たちは『MZ世代』です。
- ・しかし、若者たち自身は、自分たちを『N放世代』と自虐して呼んでいます。
- ・「恋愛、結婚、出産」このみっつを放棄した「3放世代」と言いました。
- ・「家と人間関係」のふたつも放棄した「5放世代」となり、
- ・「夢と希望」も放棄した「7放世代」となりました。
トレンドは小確幸です。「わずかでも確実な幸せ」
『小確幸(소확행・ソファッケン)』ご存知の方も多いと思います。村上春樹のエッセーの中に出てきた言葉で、彼の造語です。日常生活の中の、小さな幸せを大切に生きる、そんなような意味ですよね。村上春樹の小説は、韓国でも人気がありますが、この『小確幸』が、5年くらい前から、韓国の2030(20代30代)のトレンドになっています。一時的な流行語で終わらず、今でも、あちこちでたくさん使われています。大きな夢を見ることのできない世代としての、必然の到達点かもしれません。
本来は、日常生活の中に、小さな喜びを見出すのが『小確幸』ですが、
たとえ1泊2日、2泊3日と、期間は短くても、しっかり楽しい海外旅行、そんな宣伝文句に使われたり、毎月毎月少ない額でも確実に増やすという、銀行の宣伝文句に使われたりもしています。
『小確幸』という言葉は、韓国ですっかり定着しています。元々、村上春樹が作った造語だということは、すっかり忘れられています。もちろん、そんなこと、はじめから知らない人も多いですし、今では、誰も気にしていません。
ひとりがいい、そんな人が増えています。
今や、ひとりで住む生活は大勢になった
以前は、「ひとり」という言葉は、とてもマイナスなイメージの言葉です。
それは、他人との孤立、断絶を意味し、とても寂しく、耐えられないものです。韓国人が、海外留学に行って一番つらいのも「ひとり」です。「ひとり」は、集団主義、家族主義の韓国では、克服しなければならないものです。
しかし、最近は、ひとり住まいの人が急速に増えています。若者も、お年寄りも増え、ひとり世帯は、この10年で8倍になりました。2035年頃には2人世帯を追い抜くと予想されています。そのため、これまでと違って、「ひとり」のプラスの面を見直すように、社会全体の雰囲気が変わってきています。
テレビでも、おひとり様のプラス面が強調されはじめました。
「ひとり」をテーマにした本も、たくさん出ています。
ひとりでいる時間の力
また、このごろは、「おひとり様」のプラス面を、日本は早くに見出したと評価するようになり、
日本の本の翻訳版も、たくさん出ています。
ひとり生活5年次
寂しさに慣れてこそ他人との真正な人間関係を築くことができるし、自分自身を見つめることができる。
しかし、本当の意味で「ひとりの時間を持つ」ためには、最低限の経済力が必要だと考えられ、お金がなく、日々の生活に余裕のない「ひとり」は、有意義な「ひとり」とは、みなされていません。
誰にも邪魔されずに1人で食事を楽しみます。
韓国では、1人で食事をするのは寂しい、たとえインスタントラーメン一杯でも分け合って食べる、それが一般的な考え方だったのですが、今の若者たちは、食事も1人で、誰にも邪魔されずに楽しみたいと考えます。1人で食事をすることをホンパブ(혼밥)と言います。新造語です。
ホンパブ(혼밥)は「ひとりで(혼자)ご飯(밥)を食べる」の縮約です。1人で食事を楽しみたい人のためのホンパブ食堂が増えています。
ひとりひとりの席に、ついたてを立てて、横の人が視線に入らないようにしているところがホンパブ食堂では一番多いです。コロナが流行する以前からこのタイプだったので、コロナ流行後にも特別な追加対策は必要ありませんでした。
ホンパブを楽しむ人は、20代の女性が一番多いですが、30代、40代も増えています。
スマホを見ながら食事をする人が多いので、このような、特製どんぶりを開発した店もあります。
1990年代だったと記憶していますが、日本で「お一人様」文化が一般化して、1人でカラオケを楽しんだり、お一人様用の鍋料理屋が流行っていることなどが韓国にも紹介されました。韓国人には、「お一人様文化」は、とても奇妙なものとして映りました。日本人は、なんて寂しい人たちなんだ。
でも、あれから20数年が経って、同じになりました。
人と直接話すことがストレスです。
今の若い人たちは、カカオトークなど、スマホのメッセンジャーを使って会話をすることに慣れてしまい、電話で話したり、直接会って話すことを極度に嫌います。若い人たちにとって、人と話すのはとても苦痛でストレスなことです。
韓国では、旧正月や秋夕の名節の時には、親戚が集まり、あれこれ近況を話し合うのが一般的ですが、今の若者たちは、それさえも避けたがります。いろいろ聞かれて答えるのもおっくうだし、第一そのような会話は何の役にも立たないと考えるからです。
一方、40代以上の人たちには、会って話すのが原則で、それができなければ電話で話すのが礼儀だと考えます。しかし、今の若者たちは、そんなことは不必要で非効率的と考えます。口と耳で会話をするのではなく指と目で会話する世代です。
知っている人とさえ話すのが嫌なのですから、知らない人と話すのはなおさらです。いつも行く食堂でお店のおばちゃんに話しかけられるのも嫌だし、とにかく、できるだけ人に話しかけられないよう、わざわざイヤホンをしている若者も少なくないそうです。
このことは、アンケート結果からも明らかです。
上のふたつは、家族と対話時、
下のふたつは、他人と対話時、
そして、それぞれの上側は、一番好む手段、
下側は、主に活用する手段で、
青がメッセンジャー(カカオトークやライン等)または文字、
緑が電話、
黄色が対面、
灰色がその他です。
家族とは、会って話すほうがいいと考える若者が半数ほどいますが、実際はメッセンジャー(カカオトークやライン等)や文字で済ます若者が半数になります。そして、家族以外の人とは75%がメッセンジャーや文字で済ませています。
こんな状況ですから、会社に入ってからが大変です。緊急時でも上司にメッセンジャーで済ます今の若者たちに、時と場合を考えろと怒る上司たちと衝突が絶えません。
ビールに焼酎を少しだけ入れて飲みます。
ビールに、焼酎(소주・ソジュ)を入れたおちょこを落として、ビールと混ぜて飲むお酒を、韓国では爆弾酒と言います。酔うために飲むようなお酒ですが、韓国の飲み会では、よく読むお酒です。会社員の会食などでも飲みますし、以前は、大学生たちが集まっても、よく飲みましたが、最近の若い人たちは、アルコール度数の低いお酒を好むため、爆弾酒は、今の若い人たちにとっては、おじさんたちの悪い飲み方のイメージになっています。
爆弾酒の作り方は簡単です。ビールのグラスに焼酎用のおちょこを落とすだけです。自分で落としてもいいのですが、並べたビールグラスのふちに焼酎用のおちょこを置いて、いっせいにビールグラスに落とすのが一般的です。
味は、思ったよりも悪くありません。というより、けっこうおいしいです。ただ、焼酎をおちょこ一杯分丸々入れると、アルコールが強すぎるので、最近の若い人たちは、ビールに焼酎を少しだけ入れて飲みます。
爆弾酒と言わないで、ソメクと言います。
焼酎(소주・ソジュ)+ビール(맥주)の最初の文字をつなげてソメク(소맥)です。ソメクを作るときに、どのくらい焼酎を入れると、どのくらいのソメクになるか、一目でわかるソメク用グラスもあって、楽しみながら飲むことができます。
ソメクの作り方は、まず、ソメク用グラスの下の方に、いくつかある線のひとつに合わせて焼酎を入れます。この時、焼酎の量が多いと、それだけアルコールの強いソメクになります。そのあと、ふちに近い上のほうの線に合わせてビールを入れて、できあがりです。
ソメクは、焼酎2対ビール8くらいが一番おいしい黄金比率のようです。
ちなみに、爆弾酒という言い方ですが、元々は、日本軍で使われていた言葉のようです。
自分の性格はMBTIテストで調べます。
日本でも、少し知られているようですが、韓国では、性格と言えば、今はこれです。若者たちで、自分のMBTIのタイプを知らない人はいません。MBTIというのは、Myers Briggs Type Indicatorの略で、人の性格を、育った環境などによらない、元々備わった性質として16のタイプに分けるものです。元々は、アメリカで、性格を簡単に分ける、ひとつの指標として考えられたものです。
性格の分け方は、まず①~④のよっつの項目から、それぞれひとつを選びます。
① 精神的なエネルギーの方向性は、外交型(E)か、内向型(I)か、
② 情報収集などの認識機能は、実体験重視の感覚型(S)か、第六感などに頼る直観型(N)か
③ 判断・決定は、思考方(T)か、感情型(F)か、
④ 生活様式は、計画的な判断型(J)か、臨機応変な知覚型(P)か、
選んだよっつの、それぞれのアルファベットつなげると、ESTJとかINFPとか、アルファベットをよっつ並べた自分の性格タイプが出ます。これは自己判断でもいいのですが、無料の性格診断テストのサイトがあって、そこで皆調べます。日本語版もあります。
性格は、16のタイプに分かれます。
そして、どのタイプとどのタイプが相性がいいとか悪いとかあるのですが、韓国で「性格」と言えば、今はMBTIです。以前は、血液型で判断したのですが、今の若者たちは、血液型には、ほとんど関心がないそうです。
食事代やお茶代は、誘った人が全額払います。
誘ったのだから全額払って当然だ、と韓国人は考えます。でも、たいていは、誘われたほうが、食事のあとのコーヒー代を持ちます。韓国ではコーヒー代がけっこう高いので、それでだいたいプラスマイナスゼロになる仕組みですが「誘ったほうが全額払う」というのは韓国では常識です。
ですので、男女間では、デートはだいたい男性が誘うので男性が払うのが普通ですし、会社などでは上司や先輩が誘うのが普通なので、上司や先輩が全額払います。習い事をしていたり、どこかの教室に通っていて、先生を食事やお茶に誘った時も、先生には絶対払わせません。
たいていの韓国人は、日本語の「割り勘」という言葉を知っています。
でも意味を間違って覚えています。「別々払い」「各自払い」を「割り勘」の意味だと理解しています。「別々払い」「各自払い」を、韓国語ではダッチペイ(더치페이・Dutch Pay)と言います。最近の若い人たちの間では、このダッチペイが増えていますが、どちらにしても、韓国人は一般的に「割り勘」しません。韓国では、みんなでいっしょにお酒を飲んだら、年長者が全部出すのが普通です。デートだったら男性が全部払います。
ただ、最近は、食事代もお酒代も上がっているので、学生同士の時には、男性がいつも全額払うのは負担なので、3回に1回くらいは女性が払うこともあるようですが、
どちらが払うべきかの感覚の差で、けんかになったり、別れたりすることもあるそうです。
最近の若い人たちは、男性の全額払いは20%以下で、男性が少したくさん負担が80%近くになっています。そして、各自払いも、少ないですがいます。
しかし、デートの時の支払いをどうするか、毎回、そのことにお互い神経を使うのは嫌だ、ということで、
若者たちの間で流行しているのが、デート通帳です。
デート通帳は、カップル通帳とも言いますが、普通の通帳です。2人の共同名義では通帳わ作れないので、カップルのどちらかの名義になります。そして、そこに毎月、2人で決めた金額を入金し、デートの時は、その通帳から支払います。普通は、カードも一緒に発行するので、そのカードで払います。
男性がちょっと多く入金するカップルもいますし、同じ金額を入金するカップルもいます。
お互い学生だと、同じ金額が多く、年齢が上がると、男性が少し多くなるケースが多いようです。
どのくらいのカップルがデート通帳を使っているのか、はっきりしたデータはないのですが、今の若い人たちの2人に1人はデート通帳の経験があると言われています。そのくらい一般的です。
ただ、デート通帳で、うまくいくカップルもあれば、デート通帳が元で、逆にけんかになるカップルもあるそうです。
以前は、男性は、少し無理してでもかっこよく振舞いました。
以前は、20代、30代の女性同士で食事していて、もう少しで帰ろうかなという時、彼氏がいる人は彼氏を呼びました。彼氏のほうが迎えに行くよということも多かったです。彼氏は、お店に来たら、ちょっとくらいは食べますが、時間が短いとほとんど食べたり飲んだりできません。でも、店を出る時は全額払います。彼女が友達といっしょに食べた分も含めてぜ~んぶ払います。それがかっこいい男性だし、もし、全部を払おうとしなかったら、彼女が恥ずかしい思いをすることになり、あとで振られてしまいます。
時代が変わりました。
お金を借りてでも投資をします。
韓国では、政府の政策のミスから不動産の価格が上がっています。2020年からの1年、コロナ禍で就職も更に難しくなり、また物価も上がるため生活はますます苦しくなっています。そこへ、一時下がっていた株の価格が上がり始めたことで、投資家だけでなく、20代・30代の若者たちが、一斉に投資を始めました。しかし、若者たちに手持ちの資金はありません。銀行から借りて、投資します。信用だけで借りるのですが、ありもしない信用で無理して借りて投資をするので、
霊魂まで引っ張り集めて借金して投資 (영혼까지 끌어모아 빚내고 투자)
縮めて
ヨンクルビットゥ(영끌빚투)と言います。
このヨンクルビットゥが、若者たちに、ブームになっています。
株への投資はリスクがあります。株の値段が下がれば、銀行から借りたお金さえ返せなくなるかもしれません。しかし、安易なヨンクルビットゥに対してはマスコミも警鐘を鳴らしています。もちろん、若者たちも、リスクがあることくらいはわかっています。それでも、可能性が少しでもあれば、そっちに行くしかないのでしょう。ヨンクルビットゥは、未来に対して絶望的な若者たちが一縷の望みをかけた博打みたいなものかもしれません。
嫌悪感情をすぐ表に出します。
大きくなる '女性集会' 増える嫌悪表現
最近の若者たちは、何か嫌なことがあると、それを大げさに嫌悪感情として表に出します。
若者たちは、それを「極度に嫌悪」、縮めて「極嫌(극혐)」と言います。女性というだけで優越感を持ち、食事代を全て男性に払わせたり、たいして金持ちでもないのにブランド品を好む、そんな韓国女性を、男性たちはキムチ女(김치녀)とかテンジャン女(된장녀)と言って卑下します。
逆に、女性たちは、韓国男性を卑下して、蟲のような韓国男性、「韓男蟲(한남충)」と言います。はじめはネット上の言葉でしたが、「極嫌」な気分を表現するために嫌悪表現を口にする人が増え、徐々に男女間の葛藤に変わりつつあります。男女間だけでなく、自分や自分たちと考え方や行動の違う人たちを、極度に嫌い、嫌悪感情を表します。たとえば、小さい子供連れのママのことは、「ママ蟲(맘충)」と言って嫌悪します。韓国では、子連れは肩身が狭いです。
韓国のことは地獄の韓国、ヘル朝鮮です。
若い層 '地獄の韓国、ヘル(Hell)朝鮮' 症候群
今の若者たちは心に余裕がなくなっています。それは経済状態などが大きく影響しています。また、女性の社会進出が進んだことも影響しているようです。男性たちにとっては目の前のライバル女性が目障りですし、女性たちにとっては、社会進出したとはいっても、まだまだ昇進などでは男性と圧倒的に差があるので、そのことが大きなストレスになっています。韓国は、社会の変化が激しすぎて、意識の変化がなかなかついていかないことも理由のひとつのようです
今の若者たちは『MZ世代』です。
MZのMは、アメリカで1982年から2000年に生まれた世代を指した「Millennials世代」のMから来ています。年齢にすると、20代半ばから40代前半です。そして、Zは、10代半ばから20代半ばの世代を表す言葉で、合わせてMZです。単純に今の20代30代あたりの若者たちを指す言葉としても使われています。
しかし、若者たち自身は、自分たちを『N放世代』と自虐して呼んでいます。
Nは数学で使うNで、数字が入ります。「放」は放棄の「放」です(韓国語では「抛棄」と書きます)。あきらめたということです。
この言葉が、はじめて使われはじめた時は、景気の悪化による就職難で、若者たちは職につけず、我々は、「恋愛、結婚、出産」このみっつを放棄した、就職できないからあきらめた、ということで、
「恋愛、結婚、出産」このみっつを放棄した「3放世代」と言いました。
しかし、若者たちを取り巻く環境は更に悪化し、
「家と人間関係」のふたつも放棄した「5放世代」となり、
その後、
「夢と希望」も放棄した「7放世代」となりました。
「3放」と「5放」と「7放」を合わせて「N放世代」と言っています。今の20代から30代あたりを指します。
韓国では、一流企業に就職できれば、豊かな生活ができるのですが、そうでないと、かなり悲惨なことになります。韓国は貧富の差が大きいです。
韓国の若者たちの中には、個人の生活を楽しむ『MZ世代』と、人生をあきらめた『N放世代』、異なるふたつの世代が同居しています。